卵子凍結費用助成モデル事業(こども家庭庁)を分かりやすく解説!

Cocobaby 編集部
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制度の全体像・対象年齢の根拠・医学的エビデンスをわかりやすく解説
参照:こども家庭庁 Q&A(2026年5月7日公表)

1. この制度、ひと言で言うと?

 「将来、子どもを持ちたいけれど、今はまだそのタイミングではない」——そんな未婚女性が、 国の補助を受けながら卵子を凍結保存できる仕組みが、2026年度から全国の自治体で始まります。

ひと言まとめ
 こども家庭庁が主導し、自治体を通じて、18〜35歳の未婚女性の卵子凍結費用を 1回最大20万円助成するモデル事業です。同時に、安全性・有効性などのデータを収集し、 将来的な公的支援の在り方を検証します。

 この事業は単なる給付金制度ではなく、「研究データを集めながら制度設計を磨いていく」モデル事業という位置づけです。 そのため、参加者はデータ提供に同意することが前提となります。

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2. 制度の正式名称と目的

正式名称

「卵子凍結による妊孕性温存等に係る課題検証のためのモデル事業」[1]

 「妊孕性(にんようせい)」とは、妊娠する能力のことです。加齢とともに低下するこの能力を、 卵子を凍結することで「温存(保存)」しておこうという発想に基づいています。

なぜ今、国が動いたのか

背景にある3つの課題
1. 少子化・晩婚化の進行:女性の社会進出が進む中、出産時の平均年齢は上昇し続けています。
2. 妊孕性に関する正しい知識の不足:年齢と妊娠しやすさの関係について、多くの人が正確な情報を持っていません。
3. 社会的卵子凍結のデータ不足:医療的な理由ではなく「将来のため」に行う卵子凍結については、国内の長期データがほとんどありません。

 こども家庭庁はこの事業を「広義の医学的適応のためのデータ収集の研究事業」と位置づけています[1]。 参加者のデータを約10年間追跡し、社会的卵子凍結の安全性・心理的影響・費用対効果などを検証します。

事業の予算規模

 令和7年度(2025年度)補正予算として10億円が計上されました[2]。 令和6年度(2024年度)のパイロット実施では10自治体(北海道・福島県・群馬県・東京都・山梨県・三重県・滋賀県・京都府・鳥取県ほか)が先行参加しました[3]

2026年度からは全国の都道府県・指定都市・中核市に展開される予定です。

3. 誰が対象?対象年齢はなぜ35歳まで?

基本的な対象者

要件詳細
年齢凍結保存を実施した日において、原則18歳以上36歳未満(35歳まで)[1]
婚姻状況婚姻(事実婚を含む)をしていない者[1]
健康状態指定医療機関の診察の結果、卵子凍結を実施することが医学的に可能と判断された者[1]
医療機関都道府県等が指定した医療機関で実施すること
同意本事業へのデータ提供への同意が必要

医療的な理由がある場合は別枠で対象が広がります  
遺伝性疾患(ターナー症候群など)、自己免疫疾患、過去の医療行為(抗がん剤・卵巣手術など)、 特発性の早発卵巣不全など、卵巣予備能の低下が認められる方は、 原則12歳以上43歳未満と対象年齢が広がります[1]

また、AMH(抗ミュラー管ホルモン)値の基準(1.1 ng/mL未満)等も審査されます。

「なぜ35歳まで?」——医学的根拠

 健康上の理由がない場合の対象年齢を「36歳未満(35歳まで)」に限定したことには、 国際的な生殖医学のガイドラインに基づく医学的根拠があります。

ASRM(米国生殖医学学会)の見解

 ASRMは2021年のガイドライン[4]において、 年齢が若いほど卵子凍結後の妊娠率・出生率が有意に向上することを明示しています。

また、2024年の倫理委員会意見書[5]では、 計画的卵子凍結(Planned OC)は倫理的に許容されると認めつつも、 年齢が上がるにつれ成功率が低下することを強調しています。

 日本生殖医学会も2013年のガイドラインで「採取時の年齢は40歳以上は推奨できない」と明記しており[6]、 米国産婦人科学会(ACOG)のデータでも「妊娠能力のピークは10代後半〜20代後半で、30歳以降に低下が始まり、35歳以降はペースが加速する」とされています[7]

35歳という閾値の意味
35歳以降、染色体異常(異数性 / Aneuploidy)が急増し始め、これが妊娠率の低下と流産率の上昇を引き起こします[4]

35歳以下で卵子を凍結した場合の方が、より若い・より質の高い卵子を保存できる可能性が高く、公費投入の効果が最大化されます。

なお、凍結した卵子を使う際(生殖補助医療)は、40歳未満であれば6回まで、43歳未満であれば3回まで助成を受けられます[8]

「34歳までが最適」とも言われる理由

 米国では、専門家の中に「34歳までに行うことが望ましい」と助言する声もあります[7]

これは、35歳から36歳にかけて卵子の質が急激に変化し始める傾向があるためです。 こども家庭庁の「35歳まで」という基準は、この医学的知見に基づいた設定と考えられます。

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4. いくらもらえる?助成の内容

助成金額の全体像

助成の種類上限額回数条件
卵子凍結(採卵)最大20万円1回指定医療機関での実施[2]
採卵が不成功の場合最大10万円採卵を試みたが卵子が得られなかった場合[9]
凍結卵子を使った生殖補助医療最大25万円40歳未満:6回まで
43歳未満:3回まで
凍結卵子を使った体外受精など[8]

助成対象となる費用の例
排卵誘発のための注射・薬代(保険適用外分)採卵手術の費用卵子凍結実施時に必要な凍結保存に係る初回分の経費のみ(注:初回以降の継続・更新保管費用は助成対象外)[1]将来、凍結卵子を用いた生殖補助医療を受ける際の費用配偶者等に係る検査費用(医師が必要と認めた場合)[1]

注意:保険適用外費用が対象です  
助成の対象は医療保険適用外の費用です。実際の治療費は医療機関によって異なります。 助成金を受け取っても自己負担が生じる場合があります。

5. どこに申請する?手続きの流れ

申請の基本的な流れ

1. 指定医療機関の確認
 お住まいの都道府県・指定都市・中核市が指定した医療機関を調べます(各自治体のウェブサイト参照)。

2. 医療機関での受診・検査
 AMH検査・経膣超音波検査・ホルモン検査などを受け、採卵が医学的に可能かどうかを確認します[1]

3. 卵子凍結の実施
 医師の判断のもと、排卵誘発→採卵→凍結の手順を経ます。 凍結保存を実施した日に18〜35歳であることが要件です[1]

4. 自治体窓口への事後申請
 治療後、指定の書類をそろえて実施自治体の窓口に申請します(事後申請方式)。

5. 助成金の受領
 審査を経て助成金が給付されます。

実施主体について  
この事業は都道府県・指定都市・中核市が実施主体となります。
2026年度は全国での本格展開を目指していますが、自治体によって開始時期が異なる場合があります。
お住まいの自治体が対応しているかどうかを事前に確認してください。

6. 医学的根拠:ASRMガイドラインが示すもの

 この制度の年齢設定や卵子凍結の有効性を理解するために、 世界の生殖医療をリードするASRM(米国生殖医学学会)のガイドラインを解説します。

ASRM主要ガイドラインの変遷

発行年文書名・概要主なポイント
2013年Mature Oocyte Cryopreservation: a guideline[10]「実験的」指定を撤廃。新鮮卵子と遜色ない妊娠率・先天異常リスクの非増加を確認。
2021年Evidence-based outcomes after oocyte cryopreservation for donor OC and planned OC: a guideline[4]年齢が若いほど出生率が高いと明示。データの蓄積が進み、計画的凍結の有効性を更新。
2024年Planned oocyte cryopreservation to preserve future reproductive potential: an Ethics Committee opinion[5]計画的卵子凍結を「倫理的に許容される」と明確化。同時に成功率の不確実性の開示義務を強調。
2026年Fertility preservation in patients with medical indications: a Committee opinion[11]医療的適応のある患者向けに成熟卵子凍結を「確立された技術」として推奨。

「実験的」指定の撤廃(2012〜2013年)

 ASRMはかつて、卵子凍結を「実験的技術(experimental)」に分類していました。
しかし2012年に科学文献の包括的なレビューを実施し、以下の2点を確認したうえで、 2013年のガイドライン[10]で「実験的」指定を正式に撤廃しました。

  • ガラス化法(vitrification)を用いた際の体外受精・妊娠率が、新鮮卵子を用いた場合と同等であること[5]
  • 凍結卵子由来の児における先天異常リスクが、通常の体外受精(IVF)や一般集団と比較して増加しないこと[5]

卵子の生存率・妊娠率データ

指標データ出典
凍結卵子の融解後生存率90〜97%(ガラス化法)[6]
38歳未満で計画的卵子凍結を行った場合の出産率約51%(凍結卵子を使用した患者全体)[12]
同上(38歳未満・凍結卵子使用)での出産率70%(使用した患者の中で)[12]
ドナー卵子(新鮮)での出生率41.5〜51.1%(移植あたり)[4]
ドナー卵子(凍結)での出生率47.2〜51.1%(移植あたり)[4]
40歳未満での計画的凍結完了の推奨40歳以上での成功率は有意に低下する[13]

重要:出生率データの解釈  ASRM 2021年ガイドライン[4]の結論では、 「計画的卵子凍結後の出生率を予測するには証拠が不十分」とも述べています。

年齢が若いほど出生率が向上する傾向は確認されていますが、 個人差が大きく、成功を保証するものではありません。 クリニックごとの実績データを必ず確認してください。

年齢と卵子の質の関係

 卵子の質の低下は主に染色体異数性(Aneuploidy)の増加によって引き起こされます。 これは、35歳以降に顕著になり、38歳以降は急増します[4]

染色体異常のある卵子は受精・着床しにくく、流産リスクも高まります。

 また、加齢に伴い卵子数(卵巣予備能)も減少します。 35歳を過ぎると妊娠率が低下する傾向にあり、40歳以上では顕著になります[14]

こうした医学的知見が、本モデル事業における「35歳まで」という年齢設定の根拠となっています。

7. 知っておきたいリスクと注意点

医療的リスク

主な医療的リスク(ASRM 2024[5]より)
OHSS(卵巣過剰刺激症候群):排卵誘発剤の使用により卵巣が過剰に反応する。重症例では入院が必要になることも。
採卵時の合併症:出血・感染のリスク(発生率は低いが、ゼロではない)。
高齢妊娠に伴う産科的リスク:卵子凍結後、実際に妊娠・出産する年齢が高くなれば、母体・胎児リスクも上昇します。
長期的影響の不確実性:凍結卵子から生まれた子どもへの長期的・世代を超えた健康影響は、まだ十分なデータがありません。

心理的・社会的リスク

「保険として安心」という誤解に注意  
ASRMの倫理委員会は、「将来の出産が保証された」という誤った安心感(misplaced confidence)を持つリスクを明確に指摘しています[5]

卵子凍結は「子どもができることの保証」ではありません。凍結できた卵子の数・質・融解後の状態によって、実際の成功率は個人差が大きい。費用(凍結・保管・使用)の全体像を事前に把握することが重要です。

用語の整理:「社会的卵子凍結」とは

 従来、医療的な理由(がん治療前など)以外で行う卵子凍結は「社会的卵子凍結」と呼ばれてきました。

しかし、ASRMの倫理委員会(2024年)は、この呼び方が「軽率」「選択的」というニュアンスを含み、 不妊という将来の医療状態を回避するための正当な行為を矮小化しかねないとして、 「計画的卵子凍結(Planned OC)」という用語を推奨しています[5]

 こども家庭庁の制度は、この文脈において「計画的に妊孕性を温存する」という視点に立った事業といえます。

8. 東京都の制度との比較

国のモデル事業 vs. 東京都の制度

項目こども家庭庁
モデル事業
東京都
(既存制度)
対象年齢(凍結時)原則18〜35歳(未婚)[1]18〜39歳(在住女性)[2]
採卵助成額(上限)最大20万円最大20万円(1回のみ)
保管費助成(事業内で対応)毎年2万円(2028年度まで)[2]
使用時の助成最大25万円(6回または3回)—(別途不妊治療助成あり)
婚姻要件未婚のみ(事実婚除く)婚姻状況を問わない
データ提供必要(研究目的)

 東京都の制度は年齢上限が39歳と国より高く、婚姻状況を問わない点が異なります。
また、東京都に居住する方は国のモデル事業と東京都の制度を組み合わせて活用できる場合があります。 詳細は各自治体窓口に確認してください。

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9. よくある質問

Q. 卵子は何個凍結すればよいですか?

 目安として、8〜10個以上の成熟卵子を凍結することが望ましいとされています[15]

ただし、年齢が若いほど少ない個数でも比較的高い成功率が期待でき、逆に年齢が上がると多くの個数が必要になります。 必要な採卵回数や目標卵子数は、担当医と相談して決めてください。

Q. 凍結した卵子はいつまで使えますか?

 医学的には凍結状態の卵子は理論上長期保存が可能とされていますが、 日本では各医療機関の規定(多くは10年程度)に従います。

本モデル事業では約10年間の追跡調査が予定されています[2]。 使用時の年齢については、日本生殖医学会は「45歳以上は推奨できない」としています[6]

Q. 36歳以上は助成を一切受けられませんか?

 健康上の理由がない(社会的卵子凍結の)場合、助成対象は原則35歳までです。

ただし、遺伝性疾患・自己免疫疾患・過去の医療処置による卵巣予備能低下など、 医療的な理由がある場合は最大43歳未満まで対象となります[1]

Q. 事実婚や既婚者は対象外ですか?

 こども家庭庁のモデル事業(社会的卵子凍結部分)の対象は、 婚姻・事実婚いずれもしていない未婚女性です[1]

医療的な適応がある場合は婚姻状況を問わない場合もありますので、担当医に確認してください。

Q. 指定医療機関以外で凍結した場合は助成されますか?

 この事業の助成を受けるには、各自治体が指定した医療機関での実施が必要です。 指定外の医療機関では助成を受けられません。

参考文献・出典

1.  こども家庭庁「卵子凍結による妊孕性温存等に係る課題検証のためのモデル事業に関する Q&A」(2026年5月7日公表)
https://www.cfa.go.jp/assets/…

2.  日本経済新聞「卵子凍結助成金、まず18〜35歳対象に最大20万円 こども家庭庁公表」(2026年5月)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA074R80X00C26A5000000/

3.  こども家庭庁「母子保健に関する最近の動きについて」(2025年11月)
https://www.cfa.go.jp/assets/…

4.  ASRM Practice Committee. “Evidence-based outcomes after oocyte cryopreservation for donor oocyte in vitro fertilization and planned oocyte cryopreservation: a guideline.” Fertil Steril. 2021;116:36–47. PMID: 34148587
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34148587/

5.  ASRM Ethics Committee. “Planned oocyte cryopreservation to preserve future reproductive potential: an Ethics Committee opinion.” Fertil Steril. 2024;121:604-12.
https://www.asrm.org/practice-guidance/ethics-opinions/planned-oocyte-cryopreservation/

6.  日本生殖医学会「未受精卵子凍結保存の現状」2013年ガイドライン(厚生労働省科学研究費補助金資料より引用)
https://mhlw-grants.niph.go.jp/…

7.  日本経済新聞「卵子凍結、知っておきたいこと 米国で利用者急増」(2023年2月)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD249E30U3A220C2000000/

8.  グレイスバンク「こども家庭庁が卵子凍結の費用を助成|1回20万円を上限」(2025年11月)
https://gracebank.jp/magazine/agency-for-children-and-families/

9.  FNN「未婚女性の『卵子凍結』補助、35歳までに制限」(2026年5月2日)
https://www.fnn.jp/articles/-/1039284

10.  ASRM Practice Committees. “Mature oocyte cryopreservation: a guideline.” Fertil Steril. 2013;99:37–43.
https://www.allianceforfertilitypreservation.org/…

11.  ASRM Practice Committee. “Fertility preservation in patients with medical indications: a Committee opinion.” 2026.
https://www.asrm.org/…

12.  Cascante SD, et al. “Planned oocyte cryopreservation: the state of the ART.” Best Pract Res Clin Obstet Gynaecol. 2023; doi:10.1016/j.bpobgyn.2023.102311.
https://www.sciencedirect.com/…

13.  Tsafrir A, et al. “Clinical outcome of planned oocyte cryopreservation at a university-based fertility center.” PMC9723084. Fertil Steril. 2022.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9723084/

14.  日本生殖医学会「生殖医療 Q&A 2025」
http://www.jsrm.or.jp/public/document/seishoku_qa_2025.pdf

15.  山王病院 リプロダクション・婦人科「卵子凍結・妊孕性温存」
https://www.sannoclc.or.jp/hospital/repro/eggfreezing/

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