【データで徹底解剖】日本の年齢と妊娠・出産のリアル – 世界との比較で見る私たちの現在地と未来

女性とデータ

なぜ今、「年齢と妊娠」を考えるべきなのか

2025年の秋、私たちは歴史的な転換点に立っています。日本の出生数は過去最少を更新し続け、社会の持続可能性そのものが問われる時代となりました。この大きな潮流の中で、「いつ、何歳で子どもを産むか」という問いは、もはや単なる個人のライフプランニングに留まらず、社会全体の未来を左右する重要課題として浮かび上がっています。

多くの人々が、キャリア形成と出産のタイミング、将来への経済的な不安、そして年齢を重ねることによる妊娠への影響といった、リアルで切実な悩みに直面しています。メディアでは「少子化対策」という言葉が飛び交いますが、その根底にある一人ひとりの選択の背景や、医学的な現実、そして国際的な文脈について、私たちはどれだけ深く理解しているでしょうか。

本記事では、信頼できる公的データと専門機関の報告に基づき、「年齢と妊娠・出産」をめぐる日本の現状を徹底的に解剖します。まず、日本の出生動向がどのように変化してきたかをデータで可視化し、その背景にある社会・経済的な要因を多角的に分析します。次に、視野を世界に広げ、他国との比較を通じて日本の特異性と共通性を浮き彫りにします。そして最後に、晩産化という現実の中で、私たち個人と社会が取りうる具体的な選択肢、特に不妊治療や両立支援の最前線に光を当てます。

この記事の目的は、特定の価値観を提示することではありません。客観的な情報と多角的な視点を提供することで、読者一人ひとりが自身の人生を主体的に考え、より良い選択をするための一助となることです。そして、社会全体で建設的な議論を深めるための共通の土台を築くことを目指します。

1部:日本の現状 データで見る「年齢と妊娠」のリアル

このセクションでは、公的な統計データを基に、日本の妊娠・出産における「年齢」の変化を可視化し、その構造的な特徴を浮き彫りにします。漠然とした「少子化」という言葉の裏に隠された、具体的な人口動態の変化を明らかにします。

出生数と合計特殊出生率の歴史的低水準

日本の人口動態は、極めて深刻な局面を迎えています。厚生労働省が発表した「令和5年(2023)人口動態統計月報年計(概数)」によると、2023年の出生数は72万7,277人となり、統計を開始した1899年以来、過去最少を記録しました。これは前年から約4万3,000人以上の減少であり、減少傾向に歯止めがかからない状況を示しています。

この出生数の減少と連動して、一人の女性が生涯に産む子どもの数の平均を示す「合計特殊出生率(TFR)」も歴史的な低水準にあります。2023年の TFR(概数)は1.20となり、前年の1.26からさらに低下しました。人口を長期的に維持するために必要とされる人口置換水準(約2.07)を大幅に下回る状態が、半世紀近く続いています。

以下の表は、日本の合計特殊出生率の長期的な推移を示したものです。 1970年代半ばに人口置換水準を割り込んで以降、一時的な微増はあっても、大きなトレンドとしては一貫して低下傾向にあることが見て取れます。

日本の合計特殊出生率の推移(1970-2023年)

合計特殊出生率
19702.13
19801.75
19901.54
20001.36
20051.26
20101.39
20201.33
20231.20

出典:国立社会保障・人口問題研究所、厚生労働省「人口動態統計」より作成

「いつ産むか」の劇的な変化:平均初産年齢の上昇

出生数や出生率の低下と並行して、もう一つ注目すべきは「いつ産むか」という、出産のタイミングの劇的な変化です。いわゆる「晩産化」の進行は、現代日本の人口動態を特徴づける最も重要な要素の一つです。

厚生労働省の人口動態調査によると、2023年における女性の平均初産年齢は 31.0歳に達しました。これは、半世紀前の1975年が25.7歳であったことと比較すると、50年足らずで5歳以上も上昇したことを意味します。この変化は、単に初めての子どもを産む年齢が遅くなったというだけでなく、第二子、第三子を考える時間的な余裕が短くなることを示唆しており、結果として生涯に産む子どもの数(完結出生児数)の減少にも繋がりうる重要な変化です。 この「晩産化」は、女性のライフコースの変化、特に教育水準の向上や社会進出と密接に関連しています。キャリア形成期と伝統的な出産適齢期が重なることで、多くの女性が出産のタイミングを後ろ倒しにするという選択をしています。この構造については、第2部でさらに詳しく掘り下げます。

年齢階級別出生率の構造転換

合計特殊出生率というマクロな指標の裏側では、どの年齢層が子どもを産んでいるのか、その構造が大きく変化しています。米国の疾病対策センター

(CDC)が自国の出生率低下を分析したレポートでは、30歳未満の出生率の

急激な低下が、30歳以上の出生率の上昇分を打ち消してしまい、全体の出生率低下を招いている力学が明らかにされています。

この分析アプローチは、日本の状況を理解する上でも極めて有効です。日本のデータを見ても、同様の構造転換が明確に見て取れます。かつて出産の中核を担っていた20代、特に25~29歳層の出生率が著しく低下する一方で、 30代後半から40代にかけての出生率は上昇しています。しかし、若年層での出生数の落ち込みがあまりにも大きいため、高年齢層での増加分では到底補いきれず、結果として国全体の出生数が減少するという構図です。

厚生労働省のデータによれば、2023年には母の年齢階級別で45歳以上の層でのみ出生数が増加し、それ以外の全ての若い年齢層で減少しました。これは、出産年齢の高齢化が極限まで進んでいることを象徴しています。以下の表は、この「出産の高齢化」の構造を示したものです。

日本の年齢階級別出生率の変化(女性人口千対)

年齢階級19902023
20-24歳100.345.8
25-29歳199.179.5
30-34歳92.1105.2
35-39歳28.160.1
40-44歳5.312.5

出典:厚生労働省「人口動態統計」等のデータを基に作成

第1部のキーポイント

日本の出生数(2023年: 72.7万人)と合計特殊出生率(2023年: 1.20)は、共に観測史上最低レベルにある。
平均初産年齢は31.0歳まで上昇し、「晩産化」が著しく進行している。
20代の出生率が大幅に低下する一方、30代後半以降の出生率は上昇しているが、若年層の減少を補うには至らず、全体の出生数減少につながっている。

2部:なぜ変化は起きたのか? 晩婚化・晩産化の複合的要因

第1部で示したデータは、日本社会における出産行動の劇的な変化を物語っています。では、なぜこのような変化が起きたのでしょうか。このセクションでは、その背景にある社会、経済、そして文化的な要因を多角的に分析し、晩婚化・晩産化という現象の根源に迫ります。

女性のキャリア形成とライフコースの多様化

晩産化の最も大きな要因の一つは、女性の生き方の多様化です。特に、高等教育への進学率の上昇と、それに伴う社会進出の進展は、女性のライフプランに大きな影響を与えました。大学を卒業し、社会でキャリアを築き始める20代は、かつて結婚・出産のピークとされた時期と重なります。キャリア形成の重要な時期に出産・育児による中断を避けたいと考える女性が増えるのは、自然な流れと言えるでしょう。

この傾向を裏付けるように、国立社会保障・人口問題研究所の「出生動向基本調査」によれば、第一子出産後も就業を継続する女性の割合は年々上昇し、近年では約7割に達しています。このデータは、現代の女性にとって「仕事と育児の両立」が出産を考える上での大前提となっていることを示しています。もはや「結婚や出産を機に退職する(寿退社)」というライフコースは、多数派ではなくなりました。この変化が、結婚や出産のタイミングをより慎重に検討させ、結果として晩婚化・晩産化を促進する一因となっています。

伝統的な和装での結婚。結婚のタイミングや形態も多様化している
結婚のタイミングや形態も多様化している

経済的要因:「子育てや教育にお金がかかりすぎる」という現実

人々の意思決定に大きな影響を与えるもう一つの柱は、経済的な見通しです。長引く経済の停滞や雇用の不安定化は、特に若年層の将来設計に暗い影を落としています。国立社会保障・人口問題研究所の調査で、「理想の数の子どもを持たない理由」を尋ねたところ、長年にわたり最も多くの夫婦が挙げるのが「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」という経済的な理由です。

この回答は、子どもを持つことへの希望はありながらも、経済的な現実との間で葛藤する人々の姿を浮き彫りにします。特に、非正規雇用の割合の増加や、賃金の伸び悩みは、安定した生活基盤を築くことを困難にし、結婚や出産といった大きなライフイベントに踏み出すことを躊躇させる要因となっています。子ども一人を育てるのにかかる費用への不安が、二人目、三人目を諦めさせ、結果として少子化に繋がるという負の連鎖が生じています。

価値観の変化と結婚に対する意識

社会の成熟とともに、人々の価値観も大きく変化しました。「結婚したら子どもを持つのが当たり前」「女性は家庭を守るべき」といった伝統的な家族観は薄れ、個人の生き方や幸福を尊重する考え方が広く浸透しています。前述の「出生動向基本調査」では、「結婚したら子どもを持つべき」という考え方への支持が大幅に低下していることが示されており、結婚と出産が必ずしも結びつかなくなっている現状がうかがえます。

また、パートナーシップのあり方に対する意識も変化しています。同調査では、女性が結婚相手の条件として「家事・育児の能力や姿勢」を重視する割合が大きく上昇しました。これは、女性が一方的に家事・育児を担うのではなく、パートナーと協力して家庭を築きたいという意識の表れです。こうした意識の変化は、男女間の役割分担に対する期待値のズレを生み、結婚へのハードルを上げる一因となっている可能性も指摘されています。

男性の家事・育児参加の現状と課題

女性の社会進出が進み、共働き世帯が主流となる中で、男性の家庭への関与は極めて重要なテーマです。データ上、6歳未満の子どもを持つ夫の家事・育児関連時間は増加傾向にありますが、依然として妻の負担が圧倒的に大きいのが実情です。

この問題の根深さを示すのが、男女間の意識のギャップです。

例えば、東京都が実施した「男性の家事・育児実態調査」では、約8割の父親が現在の家事・育児の分担に「満足している」と回答したのに対し、半数以上の母親が「不満」を感じているという、認識の大きなズレが明らかになりました。

夫は「自分はかなりやっている」と思っていても、妻から見れば「まだまだ足りない」という状況です。このギャップは、家庭内のストレスを高めるだけでなく、妻が第二子以降の出産をためらう原因にもなりかねません。育児休業制度の利用促進など制度的な後押しは進んでいますが、男性の取得期間が短いといった課題も残っており、実質的な男女共同参画の実現には、まだ長い道のりがあると言えるでしょう。

3部:世界との比較 グローバルな視点から見た日本の位置

日本の少子化・晩産化は、孤立した現象ではありません。このセクションでは、日本の状況を他国と比較することで、世界共通の課題と日本特有の構造を明らかにします。グローバルな文脈で自らの位置を把握することは、今後の対策を考える上で不可欠です。

共通するトレンド:先進国における出生率低下と晩産化

まず認識すべきは、出生率の低下と晩産化が、多くの先進国に共通するメガトレンドであるという事実です。経済協力開発機構(OECD)の報告書

「Society at a Glance 2024」によると、OECD加盟国の合計特殊出生率(TFR)は、1960年の平均3.3人から2022年には1.5人へと半減しました。日本のTFR

(2023年: 1.20)はこの平均よりも低い水準にありますが、大きな流れとしては同じ方向を向いていることがわかります。

また、出産年齢の上昇も共通の現象です。米国、英国、ドイツなど多くの国で、30歳未満の女性の出生率が低下し、30歳以上の出生率が上昇するという、日本と同様の構造変化が見られます。これは、女性の教育機会の拡大やキャリア志向の高まりといった、社会経済的な発展段階がもたらす普遍的な変化と捉えることができます。

国別ケーススタディ:政策と文化が映し出す多様性

一方で、各国のTFRには依然として差があり、その背景にはそれぞれの国の政策、文化、経済状況が色濃く反映されています。以下の表は、主要国の合計特殊出生率を比較したものです。

主要国の合計特殊出生率(TFR)国際比較

国・地域 ()合計特殊出生率
韓国 (2021)0.81
日本 (2023)1.20
ドイツ (2024)1.35
英国 (2024)1.41
OECD平均 (2022)1.5
米国 (2023)1.62
フランス (2024)1.62

出典:OECD, 各国統計機関の公表データより作成

  • 韓国(TFR 0.81, 2021年): 世界で最も低い出生率を記録し続けています。極端な学歴競争社会、若者の高い失業率、高騰する不動産価格など、日本以上に深刻な社会経済的圧力が、若者世代から結婚や出産という選択肢を奪っていると指摘されています。
  • 米国(TFR 1.62, 2023年): 日本よりは高いものの、人口置換水準を大きく下回っています。若年層、特にティーンの出生率が劇的に低下したことが全体のトレンドを牽引しています。特徴的なのは、OECD諸国で唯一、国レベルでの有給の産休・育休制度が法制化されておらず、出産・育児が市場原理や個人の責任に大きく委ねられている点です。
  • フランス(TFR 1.62, 2024年): かつては手厚い家族政策により「出生率の優等生」とされてきましたが、近年は低下傾向にあります。婚外子への差別がない社会制度、充実した公的保育サービス(特に3歳からの無償の幼児学校)、子どもを持つ世帯への手厚い税制優遇(N分N乗方式)などが、長らく出生率を下支えしてきたと分析されています。
  • 英国(TFR 1.41, 2024年): 近年、過去最低水準のTFRを記録しています。特に首都ロンドンでは母親の平均年齢が32.5歳と非常に高く、晩産化が顕著です。地域による経済格差が出生率の差にも反映されている点が特徴です。
  • ドイツ(TFR 1.35, 2024年): 日本と同様に長らく低出生率に悩んできましたが、2010年代に保育インフラへの大規模な投資や育児休業制度の改革を行った結果、一時的に出生率が回復しました。近年は再び低下傾向です  が、その下げ幅は緩やかになっています。

育児支援制度の国際比較

各国の出生率の違いを生む要因として、育児支援制度のあり方は無視できません。

育児休業制度: 日本の育児休業制度は、期間や給付率の面では国際的に見

ても遜色ないレベルまで拡充されてきました。しかし、男性の取得率や取得期間の短さが大きな課題です。スウェーデンのように父親の取得を義務付ける「パパ・クオータ」が長期間設定されている国や、韓国のように父親に1年以上の育休を認める国と比較すると、日本の制度はまだ「母親が主、父親が従」という思想から抜け出せていない側面があります。

経済的支援: フランスのN分N乗方式のような、子どもの数が多いほど世帯の税負担が劇的に軽くなる制度は、多子世帯を直接的に優遇する強力なインセンティブとなります。一方、日本の児童手当や税制上の扶養控除は、子育てにかかる莫大な費用を補うには不十分との指摘が多く、経済的負担感の軽減には至っていないのが現状です。

育児支援制度の国際比較

各国の出生率の違いを生む要因として、育児支援制度のあり方は無視できません。

育児休業制度: 日本の育児休業制度は、期間や給付率の面では国際的に見

ても遜色ないレベルまで拡充されてきました。しかし、男性の取得率や取得期間の短さが大きな課題です。スウェーデンのように父親の取得を義務付ける「パパ・クオータ」が長期間設定されている国や、韓国のように父親に1年以上の育休を認める国と比較すると、日本の制度はまだ「母親が主、父親が従」という思想から抜け出せていない側面があります。

経済的支援: フランスのN分N乗方式のような、子どもの数が多いほど世帯の税負担が劇的に軽くなる制度は、多子世帯を直接的に優遇する強力なインセンティブとなります。一方、日本の児童手当や税制上の扶養控除は、子育てにかかる莫大な費用を補うには不十分との指摘が多く、経済的負担感の軽減には至っていないのが現状です。

第3部のキーポイント

出生率低下と晩産化は、多くの先進国に共通するトレンドである。
しかし、日本の出生率はOECD平均よりも低く、特に韓国と並んで世界最低水準のグループに属する。
フランスやスウェーdenのように、長年にわたり一貫した家族政策(保育、経済支援、両立支援)を継続してきた国は、比較的高い出生率を維持してきた歴史がある。
日本の状況は、世界的な潮流に、長引く経済停滞、根強い男女間の役割分業意識、そして断片的になりがちな家族政策といった日本特有の要因が重なった結果と分析できる。

4部:年齢と向き合う選択肢 –  不妊治療と両立支援の最前線

晩産化が避けられない社会トレンドとなる中で、個人と社会はどのように

「年齢」という現実と向き合っていけばよいのでしょうか。このセクションでは、医学的な知識を整理するとともに、テクノロジーの活用(不妊治療)や社会的なサポート(両立支援)といった具体的な選択肢とその最前線について掘り下げます。

医学的側面:年齢が妊娠・出産に与える影響

ライフプランを考える上で、年齢と妊娠に関する正しい医学的知識を持つことは不可欠です。これは決して不安を煽るためではなく、客観的な事実に

基づいて、一人ひとりが主体的な意思決定を行うための土台となる情報です。

一般的に、女性の妊孕性(妊娠する力)は30代前半から緩やかに低下し始め、35歳を過ぎるとそのスピードが加速します。日本産科婦人科学会では、 35歳以上での初産を「高年初産」と定義しています。

具体的には、年齢とともに卵子の数が減少し、質も低下することが知られています。あるデータによれば、排卵1周期あたりの妊娠率は、25~30歳で25~30%であるのに対し、35歳で18%、40歳では5%まで低下するとされています。また、年齢の上昇は、妊娠率の低下だけでなく、流産率の上昇や、胎児の染色体異常の発生頻度が高まるリスクとも関連しています。これらの医学的現実は、出産を望むカップルが「いつから妊活を始めるか」「どこまで医学の力を借りるか」を考える上で、重要な判断材料となります。

晩産化が進む一方で、 それを支える生殖補助医療( ART:  Assisted Reproductive Technology)の技術も飛躍的に進歩しました。日本は、実施される体外受精(IVF)や顕微授精(ICSI)の件数が世界でもトップクラスの「不妊治療大国」です。

かつては特別な治療と見なされていましたが、今や不妊治療は子どもを望む多くのカップルにとって身近な選択肢となっています。国立社会保障・人口問題研究所の「第16回出生動向基本調査」では、不妊の検査や治療を受けたことがある夫婦は全体の22.7%、すなわち4.4組に1組にものぼることが明らかになりました。この数字は、不妊や不妊治療が決して珍しいことではなく、多くの人が直面する課題であることを示しています。

体外で卵子と精子を受精させ、育った胚(受精卵)を子宮に戻す体外受精は、卵管の障害や男性不妊など、様々な原因に対応できる治療法として普及しています。技術の進歩により、治療成績も向上しており、晩産化社会における「最後の砦」として重要な役割を担っています。

制度的サポート:不妊治療の保険適用とその詳細

不妊治療の普及を後押しする大きな転換点となったのが、2022年4月から開始された公的医療保険の適用です。これにより、これまで高額な自己負担が壁となっていた治療へのアクセスが大きく改善されました。


保険適用の対象となるのは、タイミング法や人工授精といった「一般不妊治療」と、体外受精・顕微授精などの「生殖補助医療」です。ただし、この保険適用にはいくつかの重要な条件があります。

不妊治療の保険適用における主な年齢・回数制限

  • 年齢制限: 治療開始時点の女性の年齢が43歳未満であること。
  • 回数制限(胚移植の回数):
    • 治療開始時の年齢が40歳未満の場合:子ども1人につき通算6回まで。
    • 治療開始時の年齢が40歳以上43歳未満の場合:子ども1人につき通算3回まで。

出典: こども家庭庁「不妊症・不育症へ向き合いやすく 保険診療の基礎知識」

この制度は、経済的負担を大幅に軽減する一方で、「43歳」という明確な年齢の線引きを設けたことで、カップルに対してより早期の意思決定を促す側面も持っています。子どもを望むのであれば、専門医への相談や治療の開始を先延ばしにしないことが、保険適用の恩恵を受ける上でも重要になります。

社会の役割:仕事と子育て・不妊治療の両立支援

個人が医学や制度を活用する一方で、社会全体でそれを支える環境を整備することも不可欠です。特に、仕事と育児、そして不妊治療との両立は喫緊の課題です。

政府は、男性の育児参加を促すため、育児・介護休業法を改正し、2022年10月からは「産後パパ育休(出生時育児休業)」制度をスタートさせました。

これは、男性が子どもの出生直後に柔軟に休みを取得しやすくするもので、男女間の育児負担の偏りを是正する一歩として期待されています。

しかし、制度があっても、職場の雰囲気や業務の都合で利用しづらいという現実は根強く残っています。また、不妊治療は通院回数が多く、心身への負担も大きいため、仕事との両立に困難を感じる人は少なくありません。今後は、法制度の整備に加えて、企業が独自に「不妊治療休暇」を設けたり、テレワークやフレックスタイム制といった柔軟な働き方を導入したりするなど、従業員の多様なライフステージに寄り添う取り組みがより一層求められます。社会全体の理解を深め、誰もが安心して治療や子育てに臨める環境を作ることが、巡り巡って社会の活力を維持することに繋がるのです。

結論:未来への展望 私たちは何を選択し、社会は何をすべきか

本記事では、データと国際比較を通じて、日本の「年齢と妊娠・出産」をめぐる現状と課題を多角的に分析してきました。最後に、これからの未来に向けた展望をまとめます。

まず、現状を再確認すると、日本は「産む年齢の上昇(晩産化)」と「出生率の歴史的な低下」という、二つの大きな人口動態のトレンドに直面しています。これは、女性の社会進出や価値観の多様化といった個人の選択の変化と、長引く経済不安や依然として残る男女の役割分業意識といった社会構造の問題が、複雑に絡み合った結果です。この現実は、特定の世代や個人の責任に帰するべきものではなく、社会全体で向き合うべき構造的な課題です。

このような状況の中で、私たち個人に求められるのは、主体的なライフプランニングです。そのためには、まず年齢と妊孕性に関する正しい医学的知識を得ることが第一歩となります。そして、パートナーと将来の家族計画について早期からオープンに話し合い、共通認識を持つことが重要です。幸いにも、現代には不妊治療というテクノロジーの選択肢があり、保険適用という制度的なサポートも存在します。これらの情報を活用し、専門家とも相談しながら、自身の望む人生を主体的に設計していく姿勢が求められます。

一方で、個人の努力だけでは限界があります。社会が果たすべき役割は、個人の選択を尊重しつつ、誰もが安心して子どもを産み育てられる環境を、実効性のある形で整備することです。具体的には、以下の4つの柱が鍵となります。

  1. 経済的支援の強化:子育てにかかる直接的な費用を軽減するための現金給付や税制優遇を、フランスの例なども参考にしながら、より大胆に拡充すること。
  • 質の高い保育サービスの拡充:待機児童問題の解消はもちろんのこと、必

要な時に誰もが安価で利用できる、質の高い保育サービスへのアクセスを保障すること。

  • 男女間の固定的役割分業意識の変革:男性の育児休業取得を「当たり前」にするための、法制度のさらなる強化と企業文化の改革。家事・育児は女性の仕事という無意識のバイアスを社会全体で解消していくこと。
  • 柔軟な働き方の推進:時間や場所にとらわれない働き方を普及させ、仕事と育児、あるいは不妊治療との両立を現実的に可能なものにすること。

「年齢と妊娠」をめぐる問題は、単なる人口問題ではありません。それは、私たちがどのような社会で生きたいのか、次世代にどのような社会を残したいのかという、価値観を問う問題です。個人の幸福と社会の持続可能性が両立する未来を築くために、本記事が、一人ひとりの行動と社会全体の建設的な議論のきっかけとなることを、心から願っています。

参考資料

  1. National Vital Statistics Reports – CDC
  2. 人口統計資料集(2025年版) – 国立社会保障・人口問題研究所
  3. 令和5年(2023年)平均初産年齢と過去50年の推移~世界と比べて …
  4. 令和5年(2023) 人口動態統計月報年計(概数)の概況 – 厚生労働省
  5. 第16回出生動向基本調査 結果の概要 – 国立社会保障・人口問題研究所
  6. Fertility trends across the OECD: Underlying  drivers and the role for …
  7. SF2.1. Fertility rates – OECD
  8. 企業ができる子育て支援-現状の支援制度や助成金などを解説
  9. Births in England and Wales: 2024 (refreshed populations)
  10. 令和3年度「出生に関する統計」の概況 – 厚生労働省
  11. 【医師解説】高齢出産は何歳から?35歳を境に変わるリスクと対策
  12. なぜ不妊治療が増えているのか?晩婚化・生活習慣・環境ホルモン …
  13. 40代の妊娠率は?妊娠が難しいといわれる理由やリスクを解説
  14. 不妊治療に関する取組 – こども家庭庁
  15. 2022年4月から不妊治療が保険適用に!年齢・回数の制限や …
  16. 不妊症・不育症へ向き合いやすく 保険診療の基礎知識
  17. 【2025年最新】子育てと仕事の両立! 支援制度や助成金、事例を紹介
  18. 第一子出産前後の妻の継続就業率・育児休業利用状況 – 厚生労働省
  19. Bilan démographique 2024 – Insee Première – 2033
  20. Births – German Federal Statistical Office – Statistisches Bundesamt
  21. Q10 日本ではどの程度に不妊治療(生殖補助医療等)が普及していますか。

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