2026年10月20日更新 監修・コメント 河村寿宏先生(田園都市レディースクリニック院長)
「なかなか妊娠しないのは、何か原因があるのだろうか」
「男性も検査を受けたほうがよいのだろうか」。
妊娠を希望するなかで、このような不安や疑問を感じる方は少なくありません。
妊娠には、女性・男性それぞれのさまざまな要因が関係しています。そのため、不妊の検査は女性だけでなく、男性も一緒に受けることが大切です。
検査によって現在の状態を知ることは、お二人に合った治療や妊娠への方法を考えていくための大切な第一歩です。
この記事では、男性不妊の検査や主な治療法について、できるだけわかりやすくご紹介します。

1.妊娠を希望したら、男性も一緒に検査を
妊娠しにくいカップルの約半数では、男性側の要因も関係しているとされています。
このため、不妊の検査は、女性側と男性側を並行して進めることが推奨されています[1]。
女性側の検査がすべて終わるまで、男性側の検査を待つ必要はありません。
なかでも精液検査は、比較的早い段階で行うことができ、その後の治療方針を考えるうえで大切な検査の一つです。
一般に、女性が35歳未満の場合、避妊をせず妊娠を希望して約1年たっても妊娠に至らないときが、受診を検討する一つの目安です。
女性が35歳以上の場合は約6か月を目安に、40歳以上の場合や、月経不順、精巣の病気・手術歴など妊娠に影響する可能性のある要因がある場合には、さらに早めの相談が勧められます[2]。

2.精液検査でわかること
精液検査では、精液の量、精子の数、運動性、形態などを調べます。検査を受けることに抵抗を感じる方もいらっしゃいますが、現在の状態を知り、今後の治療方針を考えるための大切な情報が得られます。
世界保健機関(WHO)の検査マニュアル第6版[3]では、以下の参照下限値が示されています。
ただし、これらは妊娠できる・できないを区切る「合格ライン」ではありません。
| 検査項目 | WHO第6版の参照下限値 |
| 精液量 | 1.4 mL |
| 精子濃度 | 1,600万/mL |
| 総精子数 | 3,900万 |
| 総運動率 | 42% |
| 前進運動率 | 30% |
| 正常形態率 | 4% |
精液の状態は、体調や発熱、採取条件などによって変動します。
そのため、気になる数値がみられた場合には、一度の検査だけで判断せず、再検査を行って評価します[4]。
数値が参照下限値を下回っていても自然妊娠に至ることはあり、反対に、参照下限値以上であれば妊娠が保証されるというものでもありません。
検査結果は、ほかの検査結果やお二人の状況とあわせて総合的に評価します。

3.男性不妊の原因にはどのようなものがある?
男性不妊には、精子をつくる働きが低下している場合、精子の通り道に問題がある場合、勃起や射精に関する問題がある場合など、さまざまな原因があります。
また、検査を行っても明確な原因がわからないこともあります。
精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)
精巣の周囲の静脈が拡張する状態で、精子の状態に影響することがあります。
日本の男性不妊の患者の約30%に精索静脈瘤が認められるとする報告もあります[5]。
診察で確認できる精索静脈瘤があり、精液検査に異常がみられる場合などには、手術が治療の選択肢となることがあります[6]。
ただし、すべての方に手術が必要なわけではありません。

無精子症
射出された精液の中に精子が確認できない状態をいいます。
精子の通り道がふさがっている「閉塞性無精子症」と、精子をつくる機能に問題がある「非閉塞性無精子症」に大きく分けられます。
閉塞性無精子症に対しては、精子の通り道を再建する手術もありますが、最近では精巣から精子を採取する手術が主流です。
非閉塞性無精子症に対しては、事前の検査で精子が造られている可能性がある場合は、顕微鏡下で精巣から精子を採取する手術を検討します。
精子を採取できない場合もあるため、専門医による十分な説明を受けたうえで治療方針を検討します。

勃起障害(ED)
性行為に十分な硬さの勃起が得られない、または、持続しない状態をいいます。
日本の成人男性の数人に1人に勃起障害がある、と言われています。生活習慣病や服用している薬剤、精神的なストレス等、様々な原因が考えられます。
禁煙や適度な運動、十分な睡眠、体重管理等、生活習慣を見直すことで、EDの改善につながることがあります。
ED治療薬を内服することで、性交渉が可能になることがあります。
排卵日に合わせた性交が精神的負担になりEDが起こる場合がありますが、パートナーとのコミュニケーションを大切にしながら、排卵日とその前の数日間は妊娠のチャンスがあることを理解するとともに、必要に応じてカウンセリングを受けることもできます。
4.治療方法は、お二人の状況に合わせて選びます
男性側の検査で何らかの所見がみられても、すぐに体外受精や顕微授精が必要になるとは限りません。
原因や精子の状態だけでなく、女性側の年齢や卵巣機能、不妊期間、これまでの治療経過などを総合的に考慮し、タイミング法、人工授精、体外受精、顕微授精、男性側への治療などから適切な方法を検討します。
たとえば、精索静脈瘤の治療によって精液所見の改善を目指す場合があります。一方で、改善を待つ期間が妊娠の機会に影響する可能性もあります。
そのため、必要に応じて男性不妊を専門とする泌尿器科と生殖医療を担当する婦人科が連携し、お二人にとって適切な治療方針を考えることが大切です。
「できるだけ自然な妊娠を目指したい」「治療にかかる時間や身体的・経済的な負担が気になる」など、治療に対する希望について医師にお伝えください。

5.日常生活でできることは?
禁煙、過度な飲酒を控えること、適正体重の維持、十分な睡眠など、健康的な生活習慣を心がけることも大切です。
また、一部のAGA治療薬や男性ホルモン製剤、アナボリックステロイドなどは、男性の生殖機能に影響する可能性があります。
服用・使用している薬やサプリメントがある場合には、自己判断で中止せず、医師にお伝えください。
サプリメントや漢方薬については、精液所見への改善効果を認めたという報告もありますが、現時点では妊娠率や出生率の改善につながるかについて十分な根拠があるとはいえません。
利用を検討する場合には、効果だけでなく、安全性や費用、服用期間などについても医師にご相談ください。

まとめ|まずはお二人で検査を
男性不妊にはさまざまな原因があり、精液検査の結果だけで将来の妊娠の可能性が決まるわけではありません。
大切なのは、女性・男性ともに必要な検査を受け、お二人の状況に合った治療方法を考えていくことです。
河村先生コメント
不妊の検査というと、まず女性が受けるものと思われがちですが、妊娠には女性・男性それぞれのさまざまな要因が関係しています。妊娠しにくいご夫婦の約半数では男性側の要因も関係しているとされており、女性と男性の検査を並行して進めることが大切です。
男性側の検査では、精液検査をはじめ、必要に応じて診察や詳しい検査を行うことで、原因が明らかになり、適切な治療につながることがあります。
当院では男性不妊専門外来を設け、男性不妊を専門とする泌尿器科医師の診察を受けていただくことができます。また、男性側だけ、女性側だけを見るのではなく、泌尿器科医師と生殖医療を担当する婦人科医師が連携し、お二人の状況を踏まえて治療方針を考えています。
男性側の検査を受けるべきか迷っている段階でも構いません。妊娠を希望されていて気になることがありましたら、どうぞお気軽にご相談ください。
お二人それぞれの状況やご希望を大切にしながら、妊娠に向けたよりよい方法を一緒に考えてまいります。
河村寿宏先生プロフィール
田園都市レディースクリニック理事長であり、あざみ野本院の院長を務める河村寿宏先生は、日本の生殖医療をけん引するオピニオンリーダーです。
東京医科歯科大学医学部を卒業後、同附属病院や都立大塚病院での研鑽に加え、デンマーク・コペンハーゲン大学病院への留学で専門性を深められました。帰国後は東京医科歯科大学附属病院産婦人科病棟医長、玉川病院産婦人科医長として不妊専門外来を担当し、2000年に当クリニックを開院されています。
生殖医療専門医・指導医として豊富な経験をもち、国内外の学会でも理事として活躍。
高度生殖医療の分野で多くの患者さんに寄り添いながら、医療の質と温かさを両立させる姿勢が、多くの信頼を集めています。
関連サイト
田園都市レディースクリニック
参考資料
[1] AUA/ASRM Guideline Part I: Diagnosis and treatment of infertility in men
[2] 日本生殖医学会:不妊症Q&A 06
http://www.jsrm.or.jp/public/funinsho_qa06.html
[3] WHO laboratory manual for the examination and processing of human semen, sixth edition
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10929669
[4] 日本生殖医学会:不妊症Q&A 07
http://www.jsrm.or.jp/public/funinsho_qa07.html
[5] Nationwide survey of urological specialists regarding male infertility: results from a 2015 questionnaire in Japan
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5768969
[6] AUA/ASRM Guideline Part II: Diagnosis and treatment of infertility in men


