治療費1000万円という数字の重さ

Cocobaby 編集部
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今回は30代女性 SSさんのお話。

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私は通帳を開いた。残高は67万3,256円。

5年前、この口座には1000万円入っていた。夫と二人で10年かけて貯めたお金。マイホームの頭金にするはずだった。新しい家で、子供と暮らす未来を夢見ていた。

その夢はまだ叶っていない。そして、お金は消えた。

ノートを開いて、これまでの支出を書き出してみた。

2019年:採卵2回、移植3回、合計120万円
2020年:採卵3回、移植4回、合計185万円
2021年:採卵2回、移植3回、合計145万円
2022年:採卵2回、移植3回、合計120万円
2023年:採卵1回、移植2回、合計60万円

それ以外にも、細かい出費が積み重なっている。

PGT-A検査:20万円×2回=40万円
ERA検査:15万円
サプリメント:月2万円×60ヶ月=120万円
鍼灸治療:月3万円×24ヶ月=72万円
漢方薬:月1万5千円×36ヶ月=54万円

合計すると、約930万円。

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最初の体外受精は60万円だった。「高いな」と思った。でも「これで妊娠できるなら」と自分を納得させた。1回目は失敗した。2回目も。3回目も。

気がつけば、採卵を10回繰り返していた。

保険適用の範囲を超えた分は全額自己負担。

「少しでも妊娠率を上げたい」。その一心で、できることは全部やった。お金のことは考えないようにした。でも通帳の数字は確実に減っていった。

ある日、夫が言った。「お金は気にするな。俺が働くから」。その言葉に何も言えなかった。でも家計を管理しているのは私だ。毎月の支出を計算して、通帳の残高を確認して、次の治療費を捻出する。クレジットカードの明細を見て、ため息をつく。

通帳の数字が減るたびに、自分の価値まで削られるような感覚に陥った。「私のせいで、こんなにお金を使っている」。そう思うと、夫に申し訳なくて涙が出た。

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6月、私はファイナンシャルプランナーに相談した。

「現在の貯蓄は50万円を切っています。このペースで治療を続けると、1年以内に貯蓄が底をつきます。老後資金も全く積み立てられていません。治療を続けるなら、期限を設定することをお勧めします」

FPは淡々と数字を示した。パソコンの画面には、右肩下がりのグラフが表示されている。

夫と二人で話し合った。「あと2年。予算は300万円が限度」。そう決めた。それは私たちが出せる最後の金額だった。

でもその数字は希望というより、終わりのカウントダウンに近かった。「あと300万円使ってダメなら、諦める」。そう口に出した瞬間、現実が重くのしかかってきた。

それから、治療のたびに計算するようになった。「あと何回できるか」。数字が、私の残された希望の回数になった。

7月、友人が新築の家に招待してくれた。広いリビング、明るいキッチン、子供部屋。「ローンは大変だけど、夢が叶った」。友人は嬉しそうに言った。

私は笑顔で「おめでとう」と言った。でも心の中では叫んでいた。私たちも家を買うはずだった。あの1000万円があれば頭金にできた。ローンも組めた。新しい家で子供と暮らすはずだった。

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でも今、私たちには子供もいない。家もない。お金もない。全部、顕微鏡の下に消えた。

夜、一人で通帳を見ながら泣いた。この数字が、5年間の結果だ。

出口のないトンネルにお金を投げ込み続けるような日々。壁に1000万円を貼り付けて、それでも光は見えない。

あと300万円。それを使い切ったら、私たちはどうすればいいのだろう。子供がいない人生を、どうやって受け入れればいいのだろう。

その答えは、まだ見つからない。でも今はまだ諦められない。最後の300万円を使い切るまで、私は走り続けるしかない。しかし、疲れきっている自分もいる。

通帳を閉じて、深呼吸をした。数字だけが、私の現実を教えてくれる。

ちなみに2026年現在、まだ子供は授かっていない。

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