【不妊治療の漢方TOP3】専門家が徹底解説!当帰芍薬散・加味逍遙散・桂枝茯苓丸の効果と選び方

目次

なぜ今、不妊治療で漢方が注目されるのか?

「タイミング法を試しても、なかなか結果が出ない」「体外受精を繰り返しているが、着床の壁を越えられない」「検査では特に異常がないと言われるのに、なぜ妊娠しないのだろう…」。不妊治療の道のりは、期待と不安が交錯する長く険しい旅路になることがあります。

特に、西洋医学的な治療が行き詰まりを見せたとき、多くの女性が直面するのが、「自分の体質そのものに問題があるのではないか?」という根源的な問いです。

冷え、ストレス、疲労感、月経不順——。これらは西洋医学の検査では「異常なし」とされがちな、しかし確実に心身のバランスを蝕む「未病」の状態です。

このような、西洋医学だけでは捉えきれない領域に対し、「体質から見直し、心身全体のバランスを整えたい」という切実なニーズに応える選択肢として、今、漢方薬が改めて注目を集めています1

現代の不妊治療における課題と漢方の役割

現代の不妊治療は、排卵誘発、人工授精(AIH)、体外受精(IVF)といった生殖補助医療(ART)の目覚ましい進歩により、多くのカップルに希望をもたらしてきました。しかし、その一方で、高度な技術をもってしても、全ての人が順調に妊娠・出産に至るわけではないという現実もあります。

良好な受精卵を移植しても着床しない、あるいは妊娠しても流産を繰り返してしまうケースでは、その原因が「卵子の質」や「子宮内膜の受容能」といった、母体の根本的なコンディションにあると考えられています。

漢方医学では、妊娠を「豊かな土壌に種がまかれ、芽吹き、育つ」プロセスに例えます。どんなに優れた種(受精卵)があっても、土壌(母体)が冷えて硬かったり、栄養が不足していたり、あるいは雑草(老廃物)だらけでは、種は根付くことができません。

漢方治療の目的は、この「土壌」を整えること、すなわ「妊娠しやすい母体づくり(体質改善)」にあります2。これは、特定の病気を直接攻撃する西洋医学とは異なる、全体論的なアプローチです。

西洋医学との相乗効果を目指す補完的アプローチ

ここで重要なのは、漢方治療が西洋医学的な不妊治療と対立するものではないという点です。むしろ、両者は互いの長所を活かし、短所を補い合うことで、相乗効果を生み出すことが期待されています。

例えば、体外受精のプロセスにおいて、西洋医学が「質の良い卵子を採取し、良好な受精卵を育てる」という直接的な技術を提供する一方で、漢方薬は「卵巣への血流を改善して卵子の質の向上をサポートする」「子宮内膜を温かくふかふかにして着床しやすい環境を整える」「治療に伴うストレスを緩和し、ホルモンバランスを安定させる」といった役割を担います。

実際に、台湾で行われた大規模なコホート研究では、不妊症の女性が漢方治療を受けた場合、受けていない場合に比べて妊娠成功の確率が1.48倍に高まることが示されました3。さらに、西洋医学の不妊治療と漢方治療を併用したグループは、どちらも行わなかったグループに比べて妊娠成功の確率が5.75倍にも達しており、併用療法の有効性が強く示唆されています。

本記事では、数ある漢方薬の中でも、特に不妊治療の現場で頻用され、その有効性が多くの臨床経験や研究で支持されている「婦人科三大処方」——当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸——に焦点を当てます。なぜこれらが選ばれるのか、どのような人に、どのような効果をもたらすのかを、科学的根拠も交えながら、深く、そして分かりやすく解説していきます。

【本編】不妊治療で頻用される漢方薬TOP3を徹底解説

漢方薬は数千種類存在しますが、その中でも特に女性の不調、とりわけ不妊治療において中心的な役割を果たすとされる3つの処方があります。それが「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」「加味逍遙散(かみしょうようさん)」「桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)」です。

これらは敬意を込めて「婦人科三大処方」と呼ばれ、多くの漢方専門医が不妊治療の第一選択肢(ファーストチョイス)として検討する、いわば王道の処方です4

TOP3の選定根拠:なぜこの3処方が選ばれるのか

これら3処方が頻用される理由は、漢方医学の根幹をなす「気・血・水(き・けつ・すい)」という3つの要素の乱れに、それぞれが的確に対応できるからです。

  • 当帰芍薬散:主に「血(けつ)」の不足(血虚)と「水(すい)」の滞り(水滞)を改善します。
  • 加味逍遙散:主に「気(き)」の滞り(気滞)と、それに伴う「血」の不調を改善します。
  • 桂枝茯苓丸:主に「血」の滞り(瘀血)を改善します。

不妊に悩む女性の体質は、この「気・血・水」のいずれか、あるいは複数の乱れを抱えていることがほとんどです。そのため、これら3処方は、多くの不妊症例の根本原因にアプローチできる、非常に応用範囲の広い処方なのです。

この経験則的な有用性は、近年、科学的なデータによっても裏付けられています。前述の台湾における2,627組の不妊症カップルを対象とした大規模な症例対照研究では、これらの漢方薬の服用が妊娠成功率と強い関連があることが示されました。

下のグラフは、その研究で報告された、主要な漢方処方が妊娠成功率をどれだけ高めるかを示したオッズ比(Adjusted OR)を可視化したものです。オッズ比が1より大きいほど、妊娠成功との関連が強いことを意味します。

主要な漢方処方と妊娠成功率の関連性

このグラフから、四物湯(Si-Wu-Tang)が最も高いオッズ比(4.25)を示していますが、これは後述するように多くの婦人科処方の基本骨格となる処方です。

そして、それに次いで桂枝茯苓丸(Gui-Zhi-Fu-Ling-Wan)が3.27、加味逍遙散(Jia-Wei-Xiao-Yao-San)が3.17、そして当帰芍薬散の構成要素を含む当帰芍薬散(Dang-Gui-Sha-Yao-San)が3.14と、いずれも極めて高い数値を示していることが一目瞭然です。

この結果は、婦人科三大処方が単なる伝承や経験則だけでなく、統計的にも妊娠成功に寄与する可能性が高いことを力強く示唆しています。それでは、各処方が具体的にどのようなメカニズムで効果を発揮するのか、一つずつ詳しく見ていきましょう。

No.1 当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん):冷えと血虚を改善する「妊活の基本処方」

「冷え・貧血・むくみに悩む、虚弱なあなたのための守り神」——当帰芍薬散は、まさにこのようなキャッチコピーがふさわしい漢方薬です。古くから、色白で華奢、体力のあまりない女性に著効することから「当芍美人(とうしゃくびじん)」という言葉があるほど、特定の体質タイプに対する効果で知られています5。不妊治療においては、妊娠しやすい身体の「土台作り」を担う、基本中の基本となる処方の一つです。

漢方医学的な位置づけ:「血虚(けっきょ)」と「水滞(すいたい)」を同時に整える

当帰芍薬散が対応するのは、漢方医学でいうところの「血虚(けっきょ)」「水滞(すいたい)」という2つの病態が合併した状態です。

  • 血虚(けっきょ):西洋医学の「貧血」に近い概念ですが、それよりも広く、血液の「量」が不足しているだけでなく、血液の「質」、すなわち栄養を全身に運ぶ力が低下している状態を指します。顔色が悪く、めまいや立ちくらみがし、爪がもろく、髪がパサつき、疲れやすいといった症状が現れます。月経によって毎月血液を失う女性は、本質的に血虚に傾きやすいとされています。
  • 水滞(すいたい):体内の水分代謝が滞り、余分な水分が溜まってしまっている状態です。「むくみ」がその代表的な症状で、特に夕方になると足がパンパンになる、体が重だるい、めまい(特に回転性ではないフワフワしたもの)、頭重感などを引き起こします。

血虚で栄養が足りず、水滞で余分なものが溜まっている——。これは、栄養不足の畑に水たまりができているような状態です。これでは、種(受精卵)が根付くのは困難です。当帰芍薬散は、この「血」と「水」という、生命活動の根幹をなす2つの要素を同時に、かつ穏やかに調整する優れた処方です6

なぜ不妊治療で使われるのか?:子宮環境への多角的アプローチ

当帰芍薬散が不妊治療、特に「土台作り」の段階で頻用される理由は、その作用が妊娠成立に必要な複数のステップに好影響を与えるためです。

1. 血流改善による子宮・卵巣への栄養供給

当帰芍薬散の最も重要な作用の一つが、血行を促進し、特に骨盤内の血流を改善することです。子宮や卵巣は、毛細血管が非常に豊富な臓器であり、その機能は血流に大きく依存しています。血流が改善することで、以下のような効果が期待できます。

  • 卵子の質向上:卵巣への血流が増加すると、卵胞に十分な酸素と栄養が供給され、質の良い卵子が育ちやすくなります7
  • 子宮内膜の肥厚化:子宮内膜は、受精卵が着床するための「ベッド」です。血流が豊かになることで、内膜は厚く、柔らかく、いわゆる「ふかふか」の状態になり、受精卵が着床しやすい環境が整います8

この作用は、体外受精において「子宮内膜が薄い」と指摘された場合や、胚移植後の着床をサポートする目的でも応用されます9

2. ホルモンバランスの調整

当帰芍薬散は、ホルモンバランスを整える作用も報告されています。動物実験では、当帰芍薬散を投与したラットで、排卵時に卵巣から分泌される女性ホルモン(エストラジオール)の分泌が促進されたという結果が得られています。また、別の研究では、hMG(排卵誘発剤)と併用することで排卵率が増加したとの報告もあります10

これらの研究は、当帰芍薬散が卵巣機能に直接的・間接的に働きかけ、排卵障害や月経不順の改善に寄与する可能性を示唆しています。血流改善と栄養補給によって卵巣機能の土台を整え、結果としてホルモンバランスが正常化へと向かう、というメカニズムが考えられます。

3. 全身の冷えとむくみの改善

「冷えは万病のもと」と言われますが、不妊においては特に大敵です。体が冷えていると、全身の血行が悪化し、子宮や卵巣も例外ではありません。当帰芍薬散は、血を補い巡らせることで体を内側から温め、特に手足の末端の冷えを改善します。同時に、利水作用によって体内の余分な水分を排出し、むくみや体の重だるさを解消します。これにより、全身のコンディションが向上し、妊娠に向けた準備が整います。

こんな人におすすめ(適応タイプ)

以下の特徴に多く当てはまる方は、当帰芍薬散が体質に合っている(「証が合う」と言います)可能性が高いです。

【当帰芍薬散の適応チェックリスト】

• 体格・体力:体力がなく疲れやすい。どちらかというと痩せ型・華奢なタイプ。
• 顔色:色白、あるいは青白く、血色があまり良くない。
• 冷え:手足の先が冷えやすい(末端冷え性)。お腹も冷たいことが多い。
• 貧血症状:めまい、立ちくらみ、動悸、息切れなどを感じやすい。
• 水分代謝:むくみやすい(特に足や顔)。体が重だるく感じる。頭重感がある。
• 月経:周期が遅れがち(稀発月経)。経血量が少ない。色は薄いピンクや薄い赤。生理痛はあっても比較的軽いことが多い(シクシク痛む程度)。
• その他:肩こり、疲れやすい、耳鳴りなど。

構成生薬と役割:補血と利水の絶妙なバランス

当帰芍薬散は、わずか6種類の生薬から構成されていますが、その組み合わせは非常に精巧です。大きく2つのグループに分けることができます11

グループ生薬名主な役割
補血・活血グループ
(血を補い、巡らせる)
当帰(とうき)「婦人の宝」とも呼ばれる代表的な補血薬。血を補い、体を温め、血行を促進する。鎮痛作用もある。
芍薬(しゃくやく)血を養い(養血)、筋肉の緊張や痙攣を和らげる。生理痛などの痛みを緩和する。当帰との組み合わせは婦人科処方の基本。 
川芎(せんきゅう)強い活血作用で血の巡りを良くし、滞りを解消する。頭痛や生理痛に効果的。他の生薬の効果を全身に行き渡らせる。 
利水グループ
(水の滞りを改善する)
茯苓(ぶくりょう)穏やかな利尿作用で余分な水分を排出する。精神安定作用もある。
蒼朮(そうじゅつ)消化機能を助けながら、体内の湿気を取り除く(燥湿)。冷えによる痛みを和らげる。 
沢瀉(たくしゃ)強い利水作用で、特に下半身のむくみを改善する。めまいの原因となる水滞を取り除く。 

このように、当帰芍薬散は「血を増やすチーム」と「水をさばくチーム」が協力し合うことで、「不足(血虚)を補い、過剰(水滞)を取り除く」という、一見矛盾するような作用を同時に実現しています。この絶妙なバランスこそが、当帰芍薬散が多くの女性の体質改善に貢献できる理由なのです。

No.2 加味逍遙散(かみしょうようさん):ストレスとホルモン乱れを整える「心のサポーター」

「妊活のイライラ、不安、落ち込みに。頑張るあなたの心に寄り添う、お守りのような漢方」——。加味逍遙散は、現代社会を生きる女性が抱えがちな「ストレス」に起因する心身の不調に、的確にアプローチする処方です。その効果から「女性の抗ストレス漢方12」とも呼ばれ、不妊治療に伴う精神的な負担がホルモンバランスを乱し、妊娠を妨げているようなケースで絶大な効果を発揮します。

漢方医学的な位置づけ:「気滞(きたい)」と「血虚(けっきょ)」を解きほぐす

加味逍遙散が主に対応するのは「気滞(きたい)」、特にストレスが原因で肝(かん)の機能が失調した「肝気鬱結(かんきうっけつ)」という状態です。また、ベースには「血虚」の状態も併せ持っていると考えます。

  • 気滞(きたい):「気」は生命活動の根源的なエネルギーを指します。この気の流れが、精神的なストレスや緊張によって滞ってしまうのが気滞です。気の流れがスムーズでないと、イライラ、怒りっぽさ、憂うつ感、気分の浮き沈み、ため息、胸や喉のつかえ感、お腹の張りといった症状が現れます。
  • 肝気鬱結(かんきうっけつ):漢方でいう「肝」は、西洋医学の肝臓とは異なり、気の流れをスムーズに調整し(疏泄作用)、感情をコントロールする働きを担います。過度なストレスはこの肝の働きを抑制し、気の流れを鬱滞させます。これが肝気鬱結で、情緒不安定や月経不順の直接的な原因となります。

処方名の「逍遙」とは、「あてもなく気ままに散歩する」という意味です。この名前が示す通り、加味逍遙散は、滞った気を解き放ち、心と体をのびのびとリラックスさせることを目的としています。

なぜ不妊治療で使われるのか?:心とホルモンの連関を断ち切る

「妊活うつ」という言葉があるように、不妊治療中の精神的ストレスは計り知れません。そして、このストレスこそが妊娠を遠ざける大きな要因の一つであることが、現代医学的にも明らかになっています。加味逍遙散は、この「ストレスと不妊の負のループ」を断ち切るために、多角的に作用します。

婦人科三大処方の主戦場

1. 自律神経・ホルモンバランスの直接的な調整

ストレスは、脳の視床下部や下垂体に影響を与え、ホルモン分泌の司令塔を混乱させます。これにより、月経周期が乱れたり、排卵がうまくいかなくなったりします。近年の研究では、加味逍遙散がこの視床下部-下垂体-卵巣系(HPO軸)に作用し、乱れた女性ホルモン(エストロゲンやプロゲステロン)のバランスを整えることが報告されています13

さらに、脳内の神経伝達物質にも影響を与えることが分かってきています。特に、精神の安定に関わるセロトニンやGABAの代謝に作用し、抑うつ状態や不安感を改善する効果が示唆されています14。これは、抗うつ薬や抗不安薬とは異なる、より穏やかなメカニズムで心身のバランスを整えるアプローチです。

2. ストレスによる身体症状の緩和

気滞は精神症状だけでなく、様々な身体症状を引き起こします。代表的なのが、肩こり、首の張り、緊張型頭痛、不眠、食いしばりなどです。加味逍遙散は、気の巡りを改善し、筋肉の緊張を和らげることで、これらの不快な身体症状を緩和します。身体が楽になることで、心も自然と軽くなり、妊活に前向きに取り組むエネルギーが湧いてきます。

3. 「冷えのぼせ」の改善

ストレスで気が上半身に突き上げられると、「のぼせ」や「ほてり」といった熱症状が現れます。しかし、その一方で手足の末端は冷たい、という「冷えのぼせ(上熱下寒)」の状態に陥ることがよくあります。

これは、自律神経の乱れにより血管の収縮・拡張のコントロールがうまくいかなくなった結果です。加味逍遙散は、滞った気を巡らせ、上半身にこもった熱を冷ましながら、血行を促進することで手足の冷えも改善します。この作用により、全身の熱バランスが整い、快適な身体状態を取り戻すことができます。

こんな人におすすめ(適応タイプ)

加味逍遙散は、心と体の両面にストレスサインが現れている方に特に有効です。

【加味逍遙散の適応チェックリスト】

• 体格・体力:体力が中等度以下。見た目は普通でも、疲れやすいと感じる。
• 精神症状:イライラ、怒りっぽい、憂うつ、不安感、気分の浮き沈みが激しい。ささいなことでクヨクヨする。
• 月経前症候群(PMS):特に月経前に精神症状や乳房の張りが強くなる。
• 身体症状:肩こり、首のこり、頭痛(特に側頭部)、不眠、寝つきが悪い、夢をよく見る。
• 熱の症状:顔や上半身がほてる、のぼせる、寝汗をかく。一方で手足は冷たいことが多い(冷えのぼせ)。
• 月経:周期が早まったり遅れたり、安定しない。排卵の予測が立てづらい。
• その他:ため息が多い、喉や胸につかえ感がある、食欲にムラがある。

構成生薬と役割:心と身体に働きかける複合的な設計

加味逍遙散は10種類の生薬からなり、その構成は非常に巧みです。ベースとなる「逍遙散」に、熱を冷ます2つの生薬を加えた処方です。

グループ生薬名主な役割
気滞改善グループ
(気の巡りを良くする)
柴胡(さいこ)肝の気の鬱結を解消する中心的な生薬。抗ストレス作用、抗炎症作用があり、イライラや胸の張りを和らげる。
薄荷(はっか)清涼感のある香りで気の巡りを助け、頭や目をスッキリさせる。柴胡の働きをサポートする。 
清熱グループ
(こもった熱を冷ます)
山梔子(さんしし)イライラに伴う胸の熱感や不眠を鎮める。精神安定作用がある。
牡丹皮(ぼたんぴ)血中の熱を冷まし、血行を改善する。瘀血を取り除く作用も併せ持つ。 
補血・活血グループ
(血を補い、巡らせる)
当帰(とうき)血を補い、血行を促進する。女性特有の症状に不可欠。
芍薬(しゃくやく)血を養い、筋肉の緊張を緩和する。生理痛や腹痛を和らげる。 
健脾・調和グループ
(消化機能を助け、全体をまとめる)
蒼朮(そうじゅつ)消化機能を高め、余分な水分を取り除く。
茯苓(ぶくりょう)利水作用と精神安定作用を併せ持つ。 
生姜(しょうきょう)胃腸を温め、消化を助ける。 
甘草(かんぞう)全ての生薬の作用を調和させ、急迫症状を緩和する。 

加味逍遙散は、このように「気の滞りを解消する」「熱を冷ます」「血を補い巡らせる」「胃腸を整える」という複数のチームが連携し、ストレスによって引き起こされる複雑な心身の不調に、総合的にアプローチするよう設計されているのです。

No.3 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん):血の巡りの滞りを解消する「巡りの実力派」

「重い生理痛、子宮筋腫、内膜症…骨盤内の『滞り』を解消し、巡りの良い身体へ」——。桂枝茯苓丸は、婦人科三大処方の中でも、特に「血の巡りの悪さ」が引き起こす問題に特化した実力派の処方です。比較的体力があり、他の2処方では効果が不十分な、より根深い体質の問題を抱える女性の力強い味方となります。

漢方医学的な位置づけ:「瘀血(おけつ)」を改善する代表的駆瘀血剤

桂枝茯苓丸の最大のターゲットは「瘀血(おけつ)」です。

  • 瘀血(おけつ):血の流れが滞り、古くなった血液が特定の部分に溜まってしまっている状態を指します。いわば「血液の渋滞」や「ドロドロ血」のようなイメージです。瘀血があると、その部位に「痛み(特に刺すような固定性の痛み)」「しこり」「暗い血色」といった特徴的な症状が現れます。

婦人科領域では、この瘀血が子宮筋腫子宮内膜症卵巣嚢腫チョコレート嚢胞といった器質的な疾患や、月経困難症(重い生理痛)経血にレバー状の塊が混じるといった症状の根本原因であると考えられています。桂枝茯苓丸は、この瘀血を強力に解消する(駆瘀血)作用を持つ、代表的な「駆瘀血剤」です15

なぜ不妊治療で使われるのか?:骨盤内の根本的な血流障害に挑む

子宮筋腫や子宮内膜症は、それ自体が着床を妨げたり、卵管の通過性を損なったりする物理的な原因となり得ます。桂枝茯苓丸は、これらの疾患の背景にある「瘀血」という体質にアプローチすることで、妊娠しやすい環境作りをサポートします。

1. 骨盤内の強力な血流改善作用

桂枝茯苓丸の真骨頂は、骨盤内の微小循環に至るまで、血流を強力に促進する作用にあります。滞っていた血液が流れ出すことで、子宮や卵巣に新鮮な酸素と栄養が供給され、溜まっていた老廃物が排出されます。これにより、以下のような効果が期待されます。

  • 子宮内膜環境の正常化:瘀血によって硬く、血色が悪くなっていた子宮内膜が、柔軟で血流の豊かな状態に改善され、着床環境が整います。
  • 卵巣機能のサポート:卵巣周囲の血流が改善することで、卵胞の発育や排卵機能が正常化するのを助けます。
  • 痛みの緩和:血行不良は痛みの大きな原因です。瘀血を解消することで、長年悩まされていた重い生理痛や排卵痛が軽減されることが多くあります。

基礎研究においても、桂枝茯苓丸を投与したマウスで動脈や毛細血管の血流量が上昇したことが報告されており、その血流改善作用が科学的にも裏付けられています16

2. 子宮筋腫・子宮内膜症へのアプローチ

桂枝茯苓丸は、子宮筋腫や子宮内膜症の進行を抑制したり、症状を緩和したりする目的で広く用いられます。

漢方治療によって筋腫が劇的に消失することは稀ですが、血流を改善し、炎症を抑えることで、筋腫の増大を緩やかにしたり、過多月経や不正出血、痛みを軽減したりする効果は十分に期待できます。

これらの症状が緩和されること自体が、貧血の改善やQOL(生活の質)の向上につながり、結果として妊活に良い影響を与えます。

3. 科学的に示された高い妊娠成功率との関連

冒頭で示した台湾の研究において、桂枝茯苓丸は3.27という非常に高いオッズ比を示しました。 これは、瘀血という根深い体質を改善することが、妊娠成功に直結する可能性があることを強く示唆しています。

検査では明らかな不妊原因が見つからないものの、重い生理痛や冷えのぼせといった瘀血のサインがある「隠れ瘀血」タイプの方にとって、桂枝茯苓丸はブレークスルーをもたらす鍵となるかもしれません。

こんな人におすすめ(適応タイプ)

桂枝茯苓丸は、比較的体力があり、血行不良のサインが明確な方に適しています。

【桂枝茯苓丸の適応チェックリスト】

• 体格・体力:比較的体力がある(中等度以上)。がっしりした体型の人も多い。
• 顔色:赤ら顔、あるいは暗くくすんだ色。目の下にクマができやすい。
• 熱の症状:のぼせやすい。顔はほてるのに、足は氷のように冷たい(典型的な上熱下寒)。
• 腹部の症状:下腹部を押すと痛みや抵抗感がある(腹部膨満感)。便秘傾向。
• 月経:生理痛が非常に重い(鎮痛剤が手放せない)。経血にレバーのような塊が混じる。経血の色が暗赤色や黒っぽい。
• 婦人科疾患:子宮筋腫、子宮内膜症、卵巣嚢腫などの診断を受けている。
• その他:肩こり(特に左側がひどい)、頭重、めまい、打ち身の痕が消えにくい、しみ・そばかすが多い

構成生薬と役割:滞りを強力に動かす専門家集団

桂枝茯苓丸は、わずか5種類の生薬で構成されたシャープな処方です。それぞれの生薬が瘀血を解消するという一つの目的に向かって、強力に作用します17

グループ生薬名主な役割
駆瘀血グループ
(瘀血を強力に動かす)
桃仁(とうにん)モモの種。瘀血を解消する代表的な生薬。血の滞りを破り、月経を促す。便通を良くする作用もある。
牡丹皮(ぼたんぴ)ボタンの根皮。血の滞りを取り除き、血中の熱を冷ます。消炎作用も持つ。 
気血水調整グループ
(全身の巡りをサポート)
桂皮(けいひ)シナモン。気と血の巡りを良くし、体を温める。のぼせを引き下げる作用がある。
芍薬(しゃくやく)血を養い、筋肉の緊張を緩和して痛みを和らげる。他の駆瘀血薬の強い作用を緩和する役割も担う。 
茯苓(ぶくりょう)利水作用で瘀血に伴う水滞(むくみ)を改善する。精神安定作用もある。

【重要】服用に関する注意点

桂枝茯苓丸に含まれる桃仁牡丹皮は、血を動かす作用が強いため、妊娠中に服用すると流産や早産のリスクを高める可能性があります18

そのため、妊娠の可能性がある時期や妊娠判明後は、自己判断で服用を続けることは絶対に避けてください。この処方は、必ず漢方に精通した医師の厳密な管理のもとで使用する必要があります。

【補足編】TOP3だけじゃない!知っておきたい不妊治療の重要漢方

婦人科三大処方は非常に応用範囲が広いですが、不妊治療で用いられる漢方はこれらだけではありません。TOP3ではカバーしきれない体質や症状に対応する、その他の重要な処方をいくつかご紹介します。

温経湯(うんけいとう):子宮を温めるスペシャリスト

温経湯は、その名の通り「経脈(血の通り道)を温める」ことを主目的とした処方です。特に、冷えと血虚が非常に強く、それに加えて皮膚や唇がカサカサに乾燥する「陰虚(いんきょ)」という潤い不足の状態を伴う場合に用いられます。

  • 特徴:子宮を直接的に温める作用が強く、漢方の世界では「畑を温めて潤す」と表現されます19。手足は冷えるのに、手のひらや足の裏がほてる、という特徴的な症状にも対応します。
  • なぜ使われるか:強力な補血・温め作用により、骨盤内の血流を劇的に改善します。そのため、「子宮内膜が薄い」と指摘されたケースで第一選択となることが多い処方です20。複数の臨床研究を統合したメタアナリシスでは、温経湯の投与によって妊娠率、排卵率、子宮内膜厚の有意な改善が報告されています21

四物湯(しもつとう):婦人科処方の礎となる「血」の専門家

四物湯は、当帰・芍薬・川芎・地黄という4つの生薬のみで構成された、血を補う(補血)ことに特化した処方です。「婦人薬の聖薬」とも呼ばれ、その歴史は古く、多くの婦人科処方の基本骨格となっています22

  • 特徴:純粋に「血」を補い、その質を高めることに集中した処方です。産後や流産後の体力回復、あるいは極度の貧血や血虚状態の改善に用いられます。
  • 位置づけ:当帰芍薬散は四物湯から地黄を抜き、利水薬を加えたもの、温経湯は四物湯の成分の多くを含み、さらに体を温める生薬や潤す生薬を加えたもの、と理解することができます。四物湯を知ることは、婦人科漢方を理解する上での基礎となります。

男性不妊に対する漢方アプローチ

不妊の原因の約半数は男性側にもあると言われています。漢方治療は、女性だけでなく男性不妊に対しても有効な選択肢となり得ます。精子の数や運動率の改善を目指し、体質に応じた処方が用いられます23

  • 補中益気湯(ほちゅうえっきとう):胃腸が弱く、極度の疲労倦怠感があり、気力がない「気虚(ききょ)」タイプに。元気と精力を補います。
  • 八味地黄丸(はちみじおうがん):加齢に伴う生殖機能の低下(腎虚)や、下半身の冷え、頻尿などを伴う場合に。生命力の根源である「腎」を補います。

漢方で妊活を始める前に知っておきたいこと【Q&A】

漢方治療に興味を持った方のために、よくある質問とその答えをまとめました。

Q1. 漢方薬は自分で選んでもいい?

A: 絶対に避けてください。 この記事を読んで、「自分は当帰芍薬散タイプかも」と感じた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、漢方治療の成否は、「証(しょう)」と呼ばれる、その人の体質や状態をいかに正確に見極めるかにかかっています。

同じ「冷え」でも、その原因が血虚なのか、陽虚(温める力自体の不足)なのか、あるいは瘀血なのかによって、用いるべき処方は全く異なります。

自己判断での服用は、効果がないばかりか、かえって体調を崩す危険性もあります。例えば、胃腸が弱い人が瘀血に効くからと桂枝茯苓丸を飲むと、胃もたれや下痢を起こすことがあります。

必ず、漢方に詳しい医師や薬剤師に相談し、専門的な診断のもとで自分に合った処方を選んでもらうことが、成功への唯一の道です24

Q2. 効果はどれくらいで実感できる?

A: 体質改善が目的なので、即効性はありません。一般的に2〜3ヶ月から半年程度の継続服用が必要です。 漢方薬は、症状を抑える対症療法ではなく、体質そのものを変えていく根本治療を目指します。そのため、効果が現れるまでには時間がかかります。

多くの場合、服用開始から2週間〜1ヶ月で「何となく調子が良い」「寝起きが楽になった」といった小さな変化を感じ始め、2〜3ヶ月経つ頃に月経周期の安定や生理痛の軽減など、より明確な効果を実感するケースが多いです。焦らず、じっくりと自分の身体と向き合いながら取り組む姿勢が大切です。

Q3. 副作用はありますか?

A: 比較的安全ですが、副作用が全くないわけではありません。 漢方薬は天然の生薬から作られており、一般的に西洋薬に比べて副作用は少ないとされています。しかし、体質に合わない場合や、特定の成分に対するアレルギー反応が起こる可能性はあります。

  • 消化器症状:最も多いのが、食欲不振、胃部不快感、悪心、下痢などです。
  • 皮膚症状:発疹、かゆみなどが現れることがあります。
  • 偽アルドステロン症:甘草(かんぞう)という生薬を含む処方を長期・大量に服用した場合に、稀に起こることがあります。むくみ、血圧上昇、手足の脱力感などが主な症状です。

服用を開始してから何か異変を感じた場合は、すぐに服用を中止し、処方を受けた医師や薬剤師に相談してください。

Q4. 西洋医学の不妊治療と併用できますか?

A: 可能です。むしろ、併用による相乗効果が期待され、推奨されるケースも多くあります。 前述の通り、西洋医学と漢方医学はアプローチが異なるため、互いを補完し合う関係にあります。研究でも、排卵誘発剤と漢方の併用で妊娠率が向上したという報告が複数あります。

ただし、併用する上で最も重要なのは、不妊治療クリニックの主治医と、漢方を処方する医師・薬剤師の両方に、服用している全ての薬(西洋薬、漢方薬、サプリメントを含む)を正確に伝えることです。専門家同士が情報を共有し、連携することで、最も安全で効果的な治療計画を立てることが可能になります。

まとめ:あなたに合った漢方で、妊娠しやすい身体へ

本記事では、不妊治療において頻用される「婦人科三大処方」を中心に、漢方薬がどのように妊娠しやすい身体づくりに貢献するのかを解説してきました。

本記事の要点

  • 不妊治療における漢方の役割は、病気を直接治すことではなく、心身全体のバランスを整え、妊娠しやすい「土台(=体質)」を作ることにある。
  • 当帰芍薬散は、冷え・貧血・むくみがちな「血虚・水滞」タイプに。血を補い、水をさばくことで、身体の基本を整える。
  • 加味逍遙散は、ストレス・イライラ・不安が強い「気滞」タイプに。心とホルモンの乱れを整え、妊活の精神的負担を和らげる。
  • 桂枝茯苓丸は、重い生理痛や子宮筋腫など、血行不良が著しい「瘀血」タイプに。骨盤内の滞りを強力に解消する。
  • 漢方治療の成否は、自分の体質(証)に合った処方を見つけられるかにかかっているため、専門家への相談が不可欠である。

不妊治療の道のりは、時に孤独で、先の見えない不安に苛まれることもあるでしょう。しかし、視点を変え、自分の身体の内なる声に耳を傾けてみませんか。漢方治療は、単に薬を飲むという行為以上に、自分の体質と向き合い、生活習慣を見直し、心と体を慈しむきっかけを与えてくれます。 この記事が、あなたの妊活の旅に新たな光を灯し、希望の一助となることを心から願っています。まずは一歩、漢方に詳しい専門家の扉を叩いてみてください。そこから、あなたのための、新しい道が始まるかもしれません。

参考資料

  1. 不妊症と漢方・・・こころとからだに自然の力 … https://www.adachi-kanpo.co.jp/freepage_8_1.html ↩︎
  2. 不妊を改善する漢方薬|大阪の不妊治療専門病院 … https://lc-kitahama.jp/treatment/preparation/kanpoyaku.html ↩︎
  3. 桂枝茯苓丸で妊活!効果的な使用法と注意点を解説 https://kampo-fujidou.com/2025/07/16/11875/ ↩︎
  4. 一般不妊治療に加味逍遙散や当帰芍薬散を 併用する意義 – J-Stage https://www.jstage.jst.go.jp/article/kampomed/72/4/72_361/_pdf ↩︎
  5. 男性不妊と女性不妊(その1)―補中益気湯と当帰芍薬散 https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1414902927 ↩︎
  6. 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん) – 漢方セラピー – クラシエ https://www.kracie.co.jp/ph/k-therapy/prescription/keisibukuryogan.html ↩︎
  7. 不妊症の漢方薬治療 https://basicspace-kampo.com/disease/infertility/ ↩︎
  8. 当帰芍薬散:日経DI https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/di/digital/201703/550419.html ↩︎
  9. 当帰芍薬散(ツムラ23番):トウキシャクヤクサンの効果、適応症 https://ngskclinic.com/t023/ ↩︎
  10. 温経湯(ツムラ106番):ウンケイトウの効果、適応症 https://ngskclinic.com/t106/ ↩︎
  11. 難治性不妊症患者に対する鍼治療と漢方薬の併用効果について https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsam/74/3/74_186/_pdf ↩︎
  12. 温経湯で妊活!効果的な使用法と注意点を解説 – 富士堂漢方薬局 https://kampo-fujidou.com/2025/07/17/11880/ ↩︎
  13. 漢方薬71「四物湯(シモツトウ)」 https://sugamo-sengoku-hifu.jp/medicines/shimotsuto.html ↩︎
  14. 四物湯(ツムラ71番):シモツトウの効果、適応症 https://ngskclinic.com/t071/ ↩︎
  15. 妊活中の方へ。不妊症に向き合う漢方と生活養生 https://www.nihondo.co.jp/philosophy/consultation/sterility/ ↩︎
  16. Fertility and Chinese Herbs https://www.fertilityiq.com/fertilityiq/articles/fertility-and-chinese-herbs ↩︎
  17. ツムラ当 薬散エキス顆粒(医療用) 帰芍 https://medical.tsumura.co.jp/products/023/pdf/023-tenbun.pdf ↩︎
  18. 当帰芍薬散で妊活!効果的な使用法と注意点を解説 https://kampo-fujidou.com/2025/07/17/11876/ ↩︎
  19. 加味逍遥散で妊活力アップ!効果的な使い方と注意点 https://kampo-fujidou.com/2025/07/17/11877/ ↩︎
  20. 漢方で「不妊」から脱出しませんか https://ichiyokan.net/kenko_sodan/funin.html ↩︎
  21. 妊活に温経湯|冷え・月経不順・内膜環境の改善を和漢で … https://s-kouseidou.com/pages/unkeito-special?srsltid=AfmBOorkdRJKvKLJ3ZBugkBnBUHRvzy-AN46S5AMbv3KNvhn3BvD9vKw ↩︎
  22. ツムラ漢方桂枝茯苓丸料エキス顆粒A – ヘルスケア製品情報サイト https://www.tsumura.co.jp/brand/products/kampo/025-a.html ↩︎
  23. 不妊症 – 悩み別漢方 – 漢方ビュー https://www.tsumura.co.jp/kampo-view/trouble/joseifunin.html ↩︎
  24. 加味逍遥散はすごい?女性の心と体を支える漢方薬の実力を … https://ic-clinic-omiya.com/column-kamishouyousan/ ↩︎

専門家コメント

住吉忍先生より

本記事は、不妊治療における漢方の役割を「処方名の紹介」に留めず、なぜその漢方が選ばれるのか/どの体質にどう作用するのかを、丁寧にまとめられている点が印象的です。

臨床現場にいる立場としても、多くの方に読んでいただきたい内容だと感じました。

これまで数多くの妊活・不妊治療中の女性と向き合ってきましたが、
「当帰芍薬散・加味逍遙散・桂枝茯苓丸」といういわゆる婦人科三大処方は、確かに使用頻度が高い一方で、“正しく選ばれたとき”にこそ力を発揮する処方だと実感しています。

特に重要なのは、

* 冷え・貧血・むくみが主体なのか

* ストレスや感情の揺らぎが大きいのか

* 痛みや血の滞りが根深いのか

といった 体質(証)の見極めです。

また、誤解されがちですが、冷え・貧血・むくみがあれば、「当帰芍薬散」といった選択でもありません。
さらに、同じ「妊娠しにくさ」という結果でも、背景にある体の状態は人それぞれ異なり、
そこを見誤ると、漢方は「効かないもの」になってしまいます。

その他、妊活において見落とされがちなのが、
治療の経過・年齢・仕事や家庭の状況・これまでの頑張りといった“人生背景”です。


漢方の強みは、数値や検査結果だけでなく、そうした背景ごと受け止めながら
「今のその人に必要な整え方」を一緒に考えられる点にあります。

本記事でも繰り返し触れられているように、
漢方は西洋医学と対立するものではなく、補完し合う存在です。
私も採卵・移植・ホルモン治療という医療の力を活かしながら、
その土台となる体と心を整えるということを方針の軸としてきました。


最後に一つお伝えしたいのは、
記事を読んで「この漢方が合いそう」と感じたとしても、自己判断での服用は避けてほしいということです。
漢方は自然由来であるがゆえに、“合わない処方”が負担になることもあります。

ぜひ、漢方に精通した専門家と対話しながら、
ご自身の体質・今のフェーズに合った選択をしていただけたらと思います。
この記事が、その第一歩になることを心から願っています。

住吉忍先生プロフィール

薬剤師・国際中医師

株式会社ウィメンズ漢方代表、臨床漢方カウンセリング協会代表理事。薬剤師・国際中医師として、全国23か所の婦人科・不妊治療専門クリニックで漢方外来を担当。不妊治療、特に難治性症例やプレコンセプションケア、更年期に対応した漢方処方を得意とし、西洋医学と東洋医学を融合させた治療サポートを行っています。体質やライフステージに合わせたオーダーメイドのカウンセリングを通じて、女性の一生を支える医療の実現を目指しています。

住吉忍先生(薬剤師・国際中医師)

【関連リンク】
ウイメンズ漢方
https://womens-kampo.co.jp/

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